今回の旋盤加工豆知識は、シャフトやスリーブなど、これまで内面研磨を行っていた部品をコストダウンするアイデアについてお伝えしたいと思います。
内面研磨を行う目的には様々あると思いますが、仮に面粗度を向上させるために行っているのであれば、本当にコストの高い円筒研磨という加工方法が果たして妥当なのか?ということを知っておくことが必要です。
円筒研磨で面粗度を出す場合、内研であればおおよそRz1.6程度になります。一方、バニシングという加工方法を使うことができれば、Rz0.8以下にすることも可能です。しかも、円筒研磨よりもコストを大幅に削減できる可能性があるのです。
ただし、面粗度を向上させるためにバニシング加工を行うと言っても、何でも適用できる訳ではありませんので、バニシング加工とはいったい何なのか?どういったものに適用できるのか、その限界は?という具合に説明を進めていきたいと思います。ぜひご覧ください。
- バニシング加工とは?
バニシング加工とは、下記の写真のようなローラバニシングツールを使用し、切削加工後の表面を押しならす加工です。切削加工後の表面を塑性変形させならしていくことで、面粗度を向上させます。またバニシング加工は、切削加工ではなく塑性加工なので切屑を出さずに仕上げられ、さらにバニシング加工後の表面を硬化させることで、硬度が上昇することも特徴です。さらに短時間で加工を行うことができ、更に加工後の表面は鏡のように反射し、滑らかな表面に仕上がることも特徴です。
しかし何よりも、面粗度を向上させるために円筒研磨を行っている場合は別工程になってしまいますが、このバニシング加工であればNC旋盤加工機の中で行うことができるので、工程集約となり、結果としてコストを抑えることができるのです。
なお、バニシング加工は、精密機器や自動車業界等の様々な分野で使用されており、内面・外面・端面などに対して加工を行うことができますが、旋盤加工VA・VE.comを運営する㈱オーゼキでは、内面のバニシング加工を得意としており、流体関係の部品や摺動面に使用される内面へのバニシング加工の実績が多数あります。
- 内面バニシング加工スペック
このように、面粗度を向上させるための加工方法としてバニシング加工がありますが、写真を見て頂くとお分かりのように、バニシングツールがある程度の大きさになるため、円筒研磨から置き換える場合などでは、どのくらいの大きさに対応できるかを知っておく必要があります。
下記では、旋盤加工VA・VE.comを運営する㈱オーゼキでの内面バニシング加工スペックとテスト加工データをご紹介します。
- サイズ
φ3~φ40(最小~最大)
- 加工深さ
50㎜(標準ツール、ロング仕様も有り)
内面バニシング加工を行ったワークを半割にすると、このようになります。
- 止り穴未加工範囲
標準仕様の場合:
加工径φ8~φ14.5 → 1.5mm
加工径φ15~φ34 → 1.8mm
特殊仕様の場合:未加工範囲 → 0.8mmまで対応可
- 内面バニシング加工による効果
ここで、当社で実際に行ったバニシング加工品の測定データをご紹介したいと思います。【アルミ A6061の場合】
- 面粗度(実測値)
バニシング前(切削加工後) → Rz5.8~RZ6.0
バニシング後 → Rz0.494
- 径寸法
バニシング前(切削加工後) → φ20.0
バニシング後 → φ20.02
写真左:バニシング前 写真右:バニシング後
写真左:バニシング前 写真右:バニシング後
上記はこの旋盤加工豆知識でご紹介するために製作したものですが、もちろん実際の製品にも上記と同様の内面バニシング加工を行うことが可能です。
如何だったでしょうか?もちろん、材質や内径の大きさなどにより対応できる面粗度は変わってきますが、円筒研磨からバニシング加工に置き換えることで面粗度を向上させることができる上、コストを90%抑えることができるケースもあります。ぜひ、必要な面粗度を再度見直すことで、VEを行って頂きたいと思います。
旋盤加工VA・VE.comを運営する㈱オーゼキでは、ピストンやスリーブなどで内面の面粗度が求められるような旋盤加工品を多く手掛けております。当社にご相談頂ければ、形状や求められる公差により、円筒研磨かバニシング加工か、最適な加工方法をお客様にご提案することで、お客様の製品のコスト競争力アップに貢献いたします。内面研磨・バニシング加工でのご相談やお困り事がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
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